気持ちのサンドバッグ

気になったことを調べて、まとめたり意見を書いたりします。あくまで個人によるエッセイなので、事実関係の確認はご自身でお願いします。

遊戯王VRAINSで新規ユーザーがデュエルに参戦できるかという問題

決闘者はコンマイ語とソリティアの呪縛から解放されたか

遊戯王VRAINS(ブレインズ)が正式に発表された。それに伴い、リンク召喚やマスタールール4なども公開されている。この変更によって、既存のプレイヤーに混乱が生じているのは周知の通りだ。混乱の原因のひとつが、新ルールによって従来の召喚方法が大幅に制限されることである。一方で、新規ユーザーの参入が容易になったと好意的に捉えることもできる。実際のところどうなのか、この記事の中で検討したい。

 

www.tv-tokyo.co.jp

 

www.yugioh-card.com

 

 

 

遊戯王OCGのマイナスイメージ

遊戯王OCG(オフィシャルカードゲーム)は世界中で楽しまれているが、一方で新規ファンや出戻りのファンが参入しづらい雰囲気があることは否定できない。アニメからは想像もつかないような複雑なルール、高値で取引されるレアカード、テーマデッキの普及、「ガチ勢」が作る高いハードルという現実がある限り、新規参入は難しいだろう。

 

難しそう

遊戯王のイメージを形成している二大キーワードが「コンマイ語」と「ソリティア」だ。コンマイ語は、カードのテキストに書かれた日本語とカードを製作・販売しているKONAMIが想定する動作のズレを皮肉った言葉である。つまり、「時」「場合」「できる」「する」などの単語の細かい違いでカードに書かれている命令が変わってしまうのだ。子どもの頃、友達と遊んでいるときは自由に解釈したものだが、大人になり、大会に出るとなると、コンマイ語をマスターする必要性が出てくる。


もうひとつの単語「ソリティア」は、カードを大量に繰り出して一方的に攻める熟練者のプレイスタイルを、トランプのゲームになぞらえて自虐した言葉である。「フィールド」「デッキ」「エクストラデッキ」「墓地」「除外ゾーン」といったプレイマットを構成する部分を駆使しながら、カードの大量展開を行う。それを阻止する相手の動きがない限り一方的に事が進み、最悪の場合、先行の最初の番で勝敗が決まる。このプレイスタイルには、カードを移動できる能力を持った大量のレアカードが必要になることは言うまでもないだろう*1。このようなルールの難しさと強いプレイヤーの一方的なプレイを嫌い、カードゲームに参入できないファンも多いはずだ。

 

お金がかかりそう

遊戯王はお金がかかるゲームだ。欲しいカードを手に入れるためには、ボックスガイ*2したり、カードショップにてレアカードを単品で購入したりする必要がある。


もちろん、こうしたカードをコレクションすることは簡単ではない。時の需要によっては、カード1枚が何千何万という値段になる。遊戯王カードの価値を信じない人にとってはただの「紙っぺら」だと思うが、紙っぺらに対して何千何万を払うというのは気がひけるだろう。カードごときに金をかけるぐらいであれば、美味しいものでも食べた方がいいだろう*3


ただ強いカードを手に入れるだけなら良いのだが、最近では「テーマ」と呼ばれる同じ名前を冠するシリーズが主流になっている。「◯◯の××」「◯◯の△△」のように同じ名前を含み、それらのカードに対してだけ能力を発揮するカードも多い。こうしたテーマで構成されたデッキをうまく使うためには、同名カードやレアカードを揃える必要があって大変なのだ。構築済みデッキという形で発売されることもあるが、後々新カードが発売されてパワーアップしないはずがない*4。カードを揃えるためにコストがかかるというのも、遊戯王に参入しづらい理由のひとつだと思われる。頑張ってコレクションしたデッキも、強すぎるなどの理由で規制がかかり、ただの紙束になってしまうのだ*5

 

続けられるか不安だ

上記の理由から、長い期間、たくさん遊ばないとカードへの投資が無駄になってしまう。人気のテーマは揃えるだけでも負担が大きく、お腹いっぱいになってしまいそうだ。それでもって、飽きればただの紙束になる。無駄な投資を避けたいなら、遊戯王カードは買わないことが賢明だ。

 

遊び相手がいなさそう

もちろん、友達同士などガチ勢のいない環境であれば、高いカードを買い揃えずとも、1000円の構築済みデッキを買ってすぐにゲームをすることができる。しかし、それは遊戯王で遊んでくれる友達がいればの話だ。トレーディングカードゲームは、一般的なトランプやUNOなどのカードゲームとは違い、大人数でできないし、持っていない人は排除されてしまう。そのため、仲間内ではやりづらい。ちなみに、私がいた小学校のクラブ活動では途中で禁止された。


アニメでもバトルロイヤルルールやタッグデュエル、あるいは自由に使えるアクションカードなど遊びの可能性を模索してきたが、なかなか浸透しない。みんなで遊べてわかりやすい解説のついた構築済みデッキのセットのようなものでも出ない限り、学食で男2人組が遊ぶようなゲームからは脱することができないだろう。

 

ブランクが埋められなさそう

復帰勢にとって、ブランクを埋めるのは難しいだろう。そもそも遊戯王は歴史が長く、たくさんのカードを輩出してきた。その中で数々の召喚法や戦術を生み出しており、復帰勢が現在の流れに追いつくのは大変である。初期の遊戯王デュエルモンスターズOCGをやっていた人が復帰する場合は、シンクロ、エクシーズ、ペンデュラム、新たに登場したリンクという4つの召喚法をマスターする必要がある。よほどの意欲がなければ、復帰は難しいのだ。


たしかに、デュエルモンスターズの続編映画や現在放送中の『ARC-V(アークファイブ)』から、当時のカードの強化版が登場している。だが、それがあるからといって、当時のプレイヤーが復帰するとは考え難い。話題になるのが関の山だろう。ブランクを埋めることを放棄し、KONAMIの利益の及ばない範囲で、実家にある過去のデッキを使って楽しくデュエルする。残念ながら、これが現実的な遊び方だ。

 

リンク召喚の登場で何か変わるか

リンク召喚の登場は、復帰を促進しないものと考えられる。リンク召喚を導入したマスタールール4では、リンクモンスターをリンク召喚しない限り、特殊な召喚方法のモンスターを複数展開できないようになっている。なるほど、リンク召喚はソリティアを抑制し、カードの勢力図をリセットしているように思える。だが、リンク召喚はかえってルールを難しくしており、ハードルがよりいっそう高くなっている。その上、既存プレイヤーの中には新たなソリティアを模索する動きもあり、焼け石に水どころか、火に油を注ぎかねない状況になってしまった。

 

デュエルリンクスが気づかせてくれたこと

遊戯王デュエルリンクスは、私たちに対戦の面白さや、単純にカード同士の強さを比べることの楽しさを教えてくれた。デュエルリンクスは効果の強すぎるカードを出しておらず、プレイヤーが純粋にモンスターをぶつけ合えるような環境を用意している。いくつかワンターンキル*6を狙えるコンボが発見されているが、それに伴う強さのインフレやワンターンキルコンボの氾濫などは起きていない。モンスターを呼び出す能力を持つカードも少なく、ソリティアは難しい。このように、勝ちや強いコンボにこだわらず、友達と仲良くカードを交えることのできるゲームが一番面白いとは思わないだろうか?

 

追記

【墓守】と【アマゾネス】強すぎませんか? イシズと舞に全然勝てません。

*1:カードの能力や動かし方を覚えるのが難しいことは、言及する必要もないと思う。

*2:カードをパック(袋)ではなくボックス(箱)ごと買うこと。ボックス買い。こうすることで、1箱に1枚は入っているカードを必ず入手することができる。「デステニーヒーロー◯◯ガイ」というカード群の命名の法則にあやかってそう呼ばれている。

*3:ちなみに、「マジック・ザ・ギャザリング」というカードゲームは遊戯王よりもお金がかかることで有名で、未開封のプレミア付きパックを子どもが誤って開封して高額の弁償をする羽目になったというトラブルはネット上で話題になっていた。

*4:逆に、古いカードが新しいカードの動きを助けるということで価値を見直され、価格が高騰することもあるようだ。

*5:遊戯王では定期的に禁止・制限カードが発表されており、キーとなるカードが規制されれば、大打撃となる。

*6:1ターンで決着をつけること。