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divergent's blog

ブログは報道機関ではなく、一般人の意見です。鵜呑みにはしないでください。Twitter→@convi193

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それは本当に「二次元」か? 最近の表現物を巡るトラブル

セクハラによる炎上 空想なのになぜ?

最近、表現物がセクハラと判断され、炎上する事例が多発している。ここ数週間で起こって鎮火した事例が2つある。

 

事例1:女子トイレにセクハラ標識を掲示した出版社

大手出版社のウェブ漫画を扱う部署で、そのオフィスのトイレのピクトグラム(標識)を面白いものに変えようという企画があった。その内容は漫画で掲載されたが、現実には、女子トイレの標識をわいせつな絵に変えるというものだった。該当する部署に女性社員はいないとのことだが、それでもセクハラだという声が相次ぎ、謝罪とともに公開が停止された。

 

事例2:女性エンジニアに水着を着せるゲームを公開していた転職サイト

転職サイトが(現実で働く)エンジニアの勧誘および育成を目的としたゲームで、女性エンジニアばかりの職場、水着姿になるなどの設定があった。就業の仲介・斡旋という社会的に責任の求められる業種の企業がこうしたゲームを公開していることへの批判もあったが、「ゲームなら仕方ない」「女性はゲームの対象層ではない」などの声が相次ぎ、削除には至らなかった。


どちらにも共通するのは、女性ユーザーへの配慮が足りないことである。つまり、実際にショックを受けたり、不快感を覚えたりした人もいるし、イマドキの表現者の意識とは考えられないと失望した人もいるのだ。平たく言えば、女性も関わる可能性がある(可能性が高い)職場で女性を軽視していると思われかねない創作物を作ってしまったことが問題なのである。


この記事では、この問題について、上記の事例を絡めつつ考えていきたい。

 

 

問題への反論

今回の問題に関しては、情報不足からそのようになったであろう指摘から、明らかに女性を蔑視しているものまで、幅広い反論がある。ここではそれらに触れつつ、誤解を解いていきたい。便宜上、見出しはネットユーザーに見られる反論の内容であり、その内容について筆者が反論を書く。

 

反論1:二次元と三次元は違う

たしかに本来、漫画やゲームは現実とはみなされず、現実と重ね合わせる指摘は的外れだ。しかし、2つの事例ではどちらも職場を描写しており、現実と程遠いとは言い切れない。事例1では実際に標識を貼り替えた写真が掲載されており、現実に実施したように思わせる内容になっていた。一方で、事例2は実写の映像こそないものの、エンジニアに関する専門知識のある転職サイトが作っているというリアリティがあった。どちらにも言えることだが、発信者が女性に対して抱いているであろう欲望や感情は、その表現方法が漫画やゲームであろうと、実写映像であろうと変わらない。

 

反論2:(事例1について)傷つく女性がいなければ問題ない

今回、多く見られた指摘のひとつが「女性社員がいないなら問題ない。部外者が騒ぐことはない」というものだ。なるほど、女性社員がいないなら、侮蔑的な扱いによって相手を傷つけることもない。だが、問題は男性が女性を傷つけることではない。というのも、セクハラの定義に「男性が女性に対して」何かをするというような文言は存在しない。

 

第十一条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

 


つまり、「俺は女性蔑視を行うような職場で働きたくない」という男性社員がいれば、女性のいない職場でもセクハラが成立するのだ。これにはわいせつ図画を掲示すること(環境型セクシュアル・ハラスメント)も含まれており*1、傷つく女性がいなければよいという前提は間違いだ。もちろん、今時セクハラをした企業が、それによって好感を持たれるわけがない。企業への信頼は低下するし、問題が業界の構造として認識されれば、業界への不信につながりかねない。「女性を傷つける」行為は会社や業界を傷つけかねないのだ。

 

反論3:(事例2について)萌え系なので問題ない

転職サイトが公開したゲームは可愛い女の子が登場するいわゆる「萌え系」であると考えられる。このゲームでは女性キャラクターばかりが登場し、パワーアップすると水着に着替えるなど、可愛さとエロティシズムが強調されている。ほらみろ、もともとポリティカルコレクトネスが要求される内容じゃないじゃないか、という反論が事例2への擁護として存在している。


だが、このゲーム(とそれが掲載されているページ)には転職サイトがエンジニア志望者に対する広告(勧誘)およびその育成の目的で作ったと思わせる箇所がある。プログラミングの問題を解くという過程もあり、純粋な「萌え系」ではない。もちろん、「萌え」のコンテンツもあるのだが、実は噛み合わせが悪い。いうなれば、中学・高校の音楽の教科書のナビゲーターが「アイドルマスター」のアイドルになっているようなものだ。もちろん、音楽の教科書に初音ミクなどの最新技術が紹介されていてもよいとは思うが、それが1年間の授業の取り組みの中心になってしまうと問題がある。「学び」「仕事」という神聖な場に、萌えを持ち込んではいけなかったのだ。


そもそも、萌え化しきれていないという問題がある。例えば、メイドカフェが萌え文化の一翼を担っているのは、みすぼらしいイメージのあったメイドという職業を、綺麗で華やかなものに変えることに成功したからだ。現実のメイドのイメージには何の影響も与えていない*2。今回のエンジニアは見た目以外はほとんど原型のままであり、綺麗で華やかなものに変貌していない。そういう意味でも、エンジニアという職業を紹介しなければならない転職サイトにとっては、組み合わせてはならない属性だったと言える。

 

反論4:男性向けだから問題ない

同様に、これらは男性向けのコンテンツであり、対象外の女性が口出しする問題ではないという指摘がある。たしかに、いかにもストレートの男性が喜びそうな内容になっている。


事例1は男性向けに作られた「ネタ」であったら問題なかっただろう。だが、大手出版社のウェブサイトで公開され、実行に移されたように書かれていたため、ネタではなくなっている。別に学校の休み時間に中学生男子が考えたこと、あるいは居酒屋で大学生が話している内容であれば、炎上することはなかった。だが、女性にも人気のある漫画を出版している出版社のウェブサイト、そこは万人が見ることができ、万人の関心を引く。


事例2では、男女ともに扱うべき転職サイトで、女性が登場するサービスしか公開されていない。男性が登場する「女性向け」のものも作るべきだった。これは、以前扱ったマクドナルドにヘルシーなメニューを置くかという問題とは少し違ってくる。普通、一企業がどの層に向けて商売をするかは自由だ。マクドナルドの例では、健康志向の人はそもそもマクドナルドを利用しないので、ヘルシーなサンドイッチなどを開発し、販売する必要はない。


しかし、雇用問題となると話は別だ。女性向けでは利益が見込めないので女性向けには宣伝しない、というわけにもいかない。これを直接的に規制する法律などはないが、紹介会社は基本的に性別によって利用者を差別してはならない*3。そのため、企業イメージ的には性別に関係なく求人情報を公開していることを示したほうが、イメージアップにつながるはずだ。この企業では、性別に関係ない学習ツールも公開しているようだが、ゲームに関しては女性ばかりが登場するものしかないように見える。求人広告それ自体ではないので法的問題はないだろうが、女性には仕事を紹介していないという誤解を与える可能性もある。


どちらにも言えるのは、責任ある企業なのだから、性に関するコンテンツを発表した後の結末を予想すべきだったということだ。ウェブやテレビのコンテンツは個人同士がやり取りしている内容と違い、多くの人の目にも留まるし、それが性別や思想・信条を同じくする人とは限らない。性に関する話で笑えるのは、性別が同じだからではなく文化が同じだからと考えたほうがよい。いずれにしても、「◯◯向けだから対象外の人には関係ない」という言説は全人類がアクセスできるメディアにおいては無意味だ。

 

発信者が意識すべき点

ここまでのポイントをまとめよう。

  • 現実性があれば、「二次元」であっても不適切だ。
  • セクハラは女性への嫌がらせのことではないので、男性が嫌がればセクハラになる。出版社は情報の発信に責任を持つべき企業・業界であり、現実のセクハラにつながる表現物があれば、信頼の低下は免れない。
  • 「萌え化」するとは、現実と異なるイメージを作り出すことである。メイドカフェのメイドのように、本来の職業とおおよそ異なる挙動をしなければ、萌え化したとは言えない。「萌え」コンテンツは、職業の真面目な紹介が求められる転職サイトとは相性が悪い。
  • 誰でも無料で見られるものを「男性向けだから」「女性向けだから」と言うのには難がある。特に、職業を紹介するサイトでは、性別で差別することなく職業を紹介しなければならないので、「男性向け」コンテンツを作るのには向かない。


このように、表現方法に不適切な部分があったことが炎上の原因だと考えられる。ここでは、上記のポイントを受けて、具体的にどのような配慮をすればよいのかを考えていきたい。

 

現実との距離

発信者は、現実といかに距離をとるかについて考える必要がある。テレビアニメや特撮ドラマなどでは、世界が違うことや常識が異なることを明確に示し、暴行など本来不適切である描写を見せつつも視聴者を納得させている。それが全くのファンタジーなのか、視聴者の住む世界の常識が通用しない世界なのか、現実に近い世界を描いたものなのかは明確化する必要がある。具体的にはモンスターが存在する異世界なので身を守る必要があるという設定や、アイドル活動を専門に学ぶ中学校があるという現実とは異なる常識がそれに当たる。


ところで、現実を描く場合、現実との関連性が善悪を分ける鍵になる。つまり、現実に起こっている事件・事故や災害を類推できる場合は不適切だ。もちろん、パワハラされている社員を好意的に描くなども以ての外だ。職場は特にセンシティブ(配慮が求められる)であることを意識したほうがよい。

 

発信・受信者の属性

発信者・受信者の属性に中立的なコンテンツ作りが求められる。「◯◯が好きなんでしょう」という勝手な予想ではなく、しっかり調査すべきだ。その上で、受信者が本当に求めていることを描かなければならない。発信者の無知やエゴが独りよがりで身勝手なCMを作り出すこともある。本当に受信者のためになる内容なのか、発信者の仲間を傷つける内容になっていないかを気をつけるべきだ。発信者は一方的に情報を届ける強者であるから、弱者である受け手に配慮しなければならないのだ。

 

表現対象の属性

表現対象が何者なのかによって、さらなる配慮が必要な場合がある。例えば、今回提示した2つの事例は、どちらも部内者を表現した内容だった。これでは、身内に性的対象であることを求めるようなもので、健全ではない(セクハラの可能性が高い)。過去に炎上したメディアでも、女性会社員に職場の華であることを強制する内容や、20代後半の女性に男性のために美容をするように求めている内容のものがあった。


もちろん、こうした問題は、女性が対象のものに止まらない。収入の低い夫は不要だというセリフがあるものや、外国人差別に当たるつけ鼻をつけた俳優が出てくる内容のものも存在していた。伝えたい内容に対して適切な表現方法、あるいは表現の対象を使用できているか、気をつけなければならない。


このように、自分と異なる属性の人が関係する作品で、その属性への配慮を欠いた描写をすると問題になる。今の時代、現実のその属性の人に不快感を与えないような内容が求められている。

 

終わりに:他人を知ろう

今、さらなる問題が上がっている。女性用品のCMで、彼氏のために生理用品を使うよう促しているものがあった。ここで出てくる問題は、主に2つである。発信者のエゴが受信者を傷つけているという点と、男性の生理への無知に対するしわ寄せを女性が受けている点だ。今の時代、自分以外のことを知ることが強く求められていることを意識させられる。私もまだまだ勉強が足りない。

*1:事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!(リンク内PDF)5ページ。

*2:具体的に萌え化の条件として考えたいのは、「異世界感の演出」と「常識からの逸脱」だ。つまり、現実とは違うということ、現実の常識は通用しないのだということさえ明示できれば、人は現実に重ね合わせることを諦める。現実のメイドはご主人様が召し上がるオムライスにケチャップで文字を書かない。執事も同様だ。

*3:

 

第三条  何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。但し、労働組合法 の規定によつて、雇用主と労働組合との間に締結された労働協約に別段の定のある場合は、この限りでない。

職業安定法

 
この法律は、紹介会社の宣伝方法については何も言っていないが、男性にのみ宣伝をして、女性には宣伝をしない場合は自然と男性への職業紹介が増えるだろう。ただし、このゲームが男性向けという根拠はないし、男性ばかりに紹介することと女性への紹介を拒むことは違う。法的な問題はない。

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